「鍵のない箱」 カップリングにシビレまくるの巻


KinKi Kidsの34枚目のシングル「鍵のない箱」が発売になった。


『「鍵のない箱」はどういう状態なのか』というのをこないだふたりが話題にしていたけど、歌詞を読んだ印象は、鍵=君で、今君がいなくなって心を閉ざしてしまった僕=鍵がなくて開かない箱、というかんじ?


前作「まだ涙にならない悲しみが」と同じく松井五郎さんの詞。ふたりの言葉を借りれば、「明るさの中にちょっと切なさの漂うKinKi Kidsの王道を行く」曲。安定の設定=失恋の物語ながら、華やかな打ち込み系のアップテンポな曲なので詞の救われなさがあまり気にならない(笑)。
ただ欲を言わせていただけたら、もうちょっと詞にもメロディーにもクリアなイメージをくれるフレーズがあるといいなあ、と思った。確かに歌詞は曖昧な方が聴き手は自分の好きなようにイメージを膨らませることができるけれど、ここでは一人語りの繊細な歌詞が流れるような曲とアレンジに呑まれてしまっていて、その心地よさに気がつく頃曲が終わっているような、淡く美しい夢の断片のような印象。いや、それもまたKinKi Kidsの声が乗れば目覚めの心地よさも最上級なのだけど。剛さんがよく言っている、「サウンドが前面に出てヴォーカルが目立たない」そういうBGM的な心地良さが今のJ-POP「っぽさ」なんだろうか。


なんてことをちょっと考えてしまったのは、今回カップリングにやけに濃く面白い曲が揃っていたからの急性贅沢病なのである。


初回盤B収録の「キラメキニシス」。堂島くんは正統派ニッポンの歌謡曲のスピリットを継承していく人だなーとしみじみ。LIVEでやったら映えそうな、キッチュでキャッチーなメロディー+CHOKKAKUさんのアレンジになんかもう全身のツボを押さえられているような気持ちよさ。
それは、私がキンキを好きになったのは、彼らの声がまさにこういう歌謡曲を歌うためにあるような声だったのを思い出させてくれる。ストイックなイメージの彼らの声の翳や憂いの中に潜む、大衆性・通俗性と言い換えてもいいエロス。伴奏が生ギター一本であろうとフルオーケストラであろうとズンドコ打ち込みであろうと、こういうニッポンのメロディーに乗せた時のKinKi Kidsの無敵さたるや。ぐいぐいとその世界に引きずり込まれるこの感覚、いやはやもう悶絶です。


通常盤に収録の「No More Tears」。ちょっと懐かしさも漂うエレポップ色全開のサウンドに、少しヴォコーダーがかかっているふたりの声が弾んで音の滴の万華鏡をのぞいているような心地よさ。
そしてこれまた悶絶の「blue new moon」。その歌詞のKinKi Kidsなふたりぽっちの世界観、サビのあざといまでの歌謡曲的キャッチーさ、宇宙までぶっ飛ばされてしまいそうな壮大なスペースファンタジーなアレンジ!その硬質なエレクトリックビートの上を光の粒子のように走る剛さんのハイトーンに脳味噌がシビレてくる。


これまでKinKi Kidsのシングルというと、メインとカップリングが全然違うタイプの曲で、カップリング=地味なスルメ曲というイメージがあったけれど、今回は逆というかんじ。カップリングの方がインパクトが強く、ド派手でキラキラした宇宙的なグルーヴに貫かれている。しかも低音のビートが腰に来るような攻撃的なアレンジであっても、とてつもなく歌謡曲的。これなんだこれこれ。J-POPなんて名前を変えてアメリカンポップスを真似ても、世界じゅうのどこの音とも違う、ユニークなニッポンの音楽。


クレジットを見ると、作家さんやアレンジャーさんにはM albumにも参加している方もいて、アルバムは随分とカラフルで楽しいものになりそうな予感。
ふんわりと柔らかなハートウォーミングでエバーグリーンな世界(笑)も確かにKinKi Kidsには似合うのだけど、そこに留まらず時に大胆に未知の宇宙へ私たちを拉致って欲しい。


ああ、KinKi Kidsからこんな攻めを受けようとは夢にも思わなかった。このテイストでまるっと1枚アルバムが欲しくて死にそうだ。