「新堂本兄弟」最終回に思うこと


「LOVE LOVEあいしてる」から始まり、「堂本兄弟」「新堂本兄弟」と18年間続いて来たKinKi Kidsの音楽番組が、昨夜最終回を迎えた。


「ラストライブ」と銘打ち、最初から最後までKinKi Kidsの歌で締めくくった。ファンを招いて催された3時間ほどのライブを30分にまとめたものだったけど、二人の想いは痛いほど伝わって来た。
明るく振舞いながらも怒りに近い悔しさを漂わせる光一くん。気持ちを抑えながら歌に全て想いを託すかのように歌う剛さん。伏し目がちながら、ふたりとも自分たちの番組が終わることに納得なんていくわけがない、という目をしている。


しかし、ライブに参加した方の話だと、現場ではもう少し笑いや穏やかな表情のMCも多かったそうだから、この編集はふたりの本心だけでなく、番組制作に携わったきくちさんを筆頭としたスタッフの気持ちも同時に切り取ったものだったのかもしれない。


世の中は今「浮遊票」を集めるのにやっきになっている。TV前にキッチリ座って毎週観てくれる固定客を放置して、話題性の高いゲストを呼びザッピングしている人を「おっ!」と立ち止まらせることで瞬間視聴率を稼ぐ。でもそんな層は結局定着などしない。


しかし、どんなにバカバカしかろうと、おカネを出してくれるスポンサーへ「損はさせていませんよ」と証明する方法はその数字しかない。きくちさんも営業と制作の軋轢のど真ん中でゼーハーしていたに違いないのだが、基本的にアーティストが「本格的」な音楽など作らせてもらえていないこのご時世に「本格的」と銘打った音楽番組をゴリ推ししていくことにムリがあったのだとは思う。「口パク禁止」もタレント(あえて歌手とは言いません)の意識を向上させる前に、そのあまりのヘタクソさに視聴者をとことんウンザリさせてしまった感がある。


いわゆるアイドルグループを応援するファンにとって歌唱力はそれほど重大なものではない。あれは「パフォーマンス」を「見る」ものだから(悪い意味ではなく)。でもその「パフォーマー」の力を借りないと視聴率が稼げないから「本格的」歌番組に出演させ生歌を披露させる。そこに一体どんな意味があっただろう?


とは言え、きくちさんのこだわりが全ての元凶ではない。問題はそういうこだわりを持つことが嫌われる社会なのだ。「今回この予算でやってよ」と 言われて「それじゃいいものはできん!」と文句たれるようなガンコ一徹の職人やアーティストは不況の世には育ちにくい。実際、その上層部が変わって以来、以前にも増してひと手間ふた手間をかける予算を削ったお手軽なファストフード的な番組ばかりが目につく。
しかも彼らは、きくちさんばかりでなく他の番組や部署でもそれまで長く携わって来た担当を外す「シャッフル」をやったらしい。硬直した状況に新風を、というようなつもりだったらしいが、それはTV局というクリエイティヴな職場においては「プロ」を排除する愚行に他ならない。そして、そこに反旗を翻す「プロ」たちへの見せしめ、スケープゴートとしてきくちさんは更迭された、という気がするのだ。


だからこそ、KinKiのふたりの口惜しさを思うと、こちらも「こんなとこで泣いたら負けだ」と思う。新番組の話があった時も、ふたりが「音楽はやらせてもらえるんですか?」とまず聞いたという話に、音楽と切り離されるKinKi Kidsを一番想像できなかったのは他でもないKinKi Kidsだったはずなのだと胸が痛くなる。
負けず嫌いな光一くんの最後の顔が忘れられない。放送されなかった部分で彼は、「みんなの声で上層部の重い腰を上げさせましょう。その上層部の方々、観に来ていると思いますが、僕は言います!」と言ったという。そのあとの、普段ファンには絶対に見せないあの険しい表情。それを剛さんが「光一くん、ありがとう」と深く頭を下げたことで彼をいつもの笑顔に変えてくれたのは、本当に救われた。この絶妙なバランスこそがKinKi Kidsなのだ。


ポジティヴに考えよう。この番組の終了は本人たちの努力やファンの応援だけではどうにもならなかった。だからこそ、逆に復活の可能性も高い。今すぐにはムリだとしても、ポリシーのない上層部の風向きというのはよく変わるものだ。もっともその前に、きくちさんや拓郎さんが育ててくれた「KinKi Kids=音楽」というコンテンツに興味を示している他局、というのは確実に存在しているとも思う。


つくづくKinKi Kidsという人たちは茨の道をゆく運命にあるようだ。でもそれをバネにしてこれまでも前に進んで来た「逆境に強い人たち」だから、今回も心配はしない。折しも、光一くんの舞台が1000回を迎えてひとつの完成形を見せ、剛さんが何か吹っ切れたように新たな可能性に向かおうとしている充実期の今、ふたりの「帰るところ」だったKinKi Kidsが窮地に立たされている。愛する音楽の未来とKinKi Kidsのプライドを賭けて、彼らがどう動くか。どんな風にこの逆風に向かっていくのか、ますます楽しみに新番組を待ちたいと思う。