「ロイノチノイ」の色


どうもとくべつよしちゃん盤を聴いている。
ほんとうに長生きはするもので、こうして海外に住んでいても昔のように郵便受けの前でハチ公のように待ち続けることもなくなった。友人に頼んで買ってもらったCDをFileに落としてメールしてもらえば、フラゲだってできちゃうんである。私が最初に就職した会社にはA4の書類1枚送るのに40分かかるFaxがあったことを思うと、未来に生きてる自分を感じるわー。ずるずる(お茶)。


ドカドカかっこいいテクノだった「天魔さんがゆく」のテーマ曲に少々渋いアレンジを加えた「Welcome to shamanippon - INISHIE groove」から始まる『ロイノチノイ』。もうしょっぱなから身体が動く。お行儀よくなんて聴いていられない。
「I gotta take you shamanippon」「Ginger」「shamaspice」、剛さんは超絶FUNKYにPOPに風を切り、しなやかに疾走する。


突然ゆる〜くレゲエ調の「イラミイナカハ」。でも剛さんの声が乗るとカリブというよりむしろポリネシアっぽいというか、ソコハカとなくニライカナイの風も吹くようで、「日本人はどこから来たのかねえー」なんて考えながら呑気に船旅をしているような浮遊感に呑み込まれる。
「雨恋」と同じ切なさと雨の匂いがするミディアムテンポの「イノチトボクラ」。ここに置くにはちょっと異質なようでいて、「恋は命の始まり」とどこかで漏らした剛さんの”初心”がちらりとのぞくような佳曲。 「美しき日」、そしてふつうよし盤だとここに織り込まれる「ヒトツ」とともに、これらは「瞬き」の系譜かな。小さな喪失を繰り返し、「どうしてだろう」とつぶやきながらも、そこにはいつも命を未来へ繋いでゆこうとする意思が感じられる。
「shamadokafunk - 謝 円 音 頭」は、いつぞやの社会科見学に当選したファンの方々のコーラス入り。一体どんなものになるんだろうと若干震えたのだけど(笑)、皆の声がモザイクを散りばめたような色彩を感じさせて、とてもステキな締めの演出になっていた。


緩急とり混ぜた見事な配球というか、潔く洗練された音とバランス。どこか月光に映えるミステリアスさのあった「ラカチノトヒ」と比べると、随分とPOPで彩度がイッキに上がった印象。ちょっとばかりカオティックだったShipでの経験は結局余計なものを濾過するために必要なものだったんだろうか。あそこで生まれた曲も1年半の時を経て見違えるように成長していた。
剛さんはこれまでも、その時々の自分の「色」を纏ってみせてくれたが、この「ロイノチノイ」で彼が纏う衣の柔らかくも力強い色たちからは、太陽の光を浴び雨を受けて育ったものの生命の気配が立ち上る。


染織家で人間国宝の志村ふくみさんが言う。
「色は混ぜるとそれぞれが鈍くなって死んでしまう。どの色も個性であり、その個性は殺せない。別の色を作るには、黄色の横に青を置くことで遠目に緑に見せる、という”織色”を使う。違う個性をひとつに統合するには、混ぜ合わせて均等にするのではなく、ひと色ひと色を絶妙に配置し重ね合わせる。その織色によって現れる全体像こそが自分の表現であり、そこで初めてその人らしい表現になる」


「ロイノチノイ」はその名のとおりカラフルな個性=命の色あふれるアルバムだ。ゴリゴリのFUNKだろうがゆるゆるのレゲエだろうが、ひとつひとつ織り上がったその音には、まごうことないshamanipponというくにの色が表れる。


あ、それからアルバムの表題曲なのになぜかボーナストラック的な扱いの「ロイノチノイ」(笑)、これがよかった。呪文のように「ロイノチノイ」を繰り返すだけなのだけど、炊きたてのごはんに80年代のジャーマンテクノポップふりかけをまぶしたような味わい深さ(いろんなオカズ音が入っていて、途中で私の iPhoneのコオロギが鳴いてもきれいにハマって気づかなかった(笑))。頭の「Welcome to shamanippon - INISHIE groove」のテイストとも呼応する気もするのに、なぜかとくべつよし盤にもふつうよし盤にも入っていない。しかもよく見るとふつうよし盤は曲数も多い上に曲順も変わっていて、聴いたらちょっと印象も違うんじゃなかろうか。こっちは今空を飛んでいるところなので、感想はまた後日。