「ヒトツ」


「ヒトツ」を観た。
まるで天啓を受けるかのように、剛さんがレーザーの電(いなずま)に貫かれているDVDのジャケット写真が美しい。


「今回は”祈り”より”人”寄り。今こう生きている!と言いたい。生きていることを証明するシーンの連続があるといい」。剛さんが堤監督に自分の表現したいことを伝える。そして堤監督のつくり上げたものは、堂本剛というアーティストの世界観を見せる壮大なプロモーションビデオだった。


注文通り、剛さんの「日常」のショットがLIVEのあちこちにカットバックのように現れる。Bay FMでの「Fashion & Music Book」の収録、津波の爪痕の残る気仙沼を歩く、鴨川で水遊び、高台から平安神宮を望む、和気藹々としたリハーサル、ホテルの部屋でお香を焚く・・・彼の生きる日々。そしてLIVE。


「意志」のイントロが流れ出し、金色の能面を付けた剛さんが現れ、舞う。ゆったりとした衣装のドレープをゆらめかせながら、宙に手を伸ばし、引き寄せ、掴む、放つ、抱く。彼の身体が物語を紡ぎ始める。彼のダンスはいつも雄弁だ。彼のつくるインスト曲も同じだが、時にこの人は言葉を使わない方が自由に表現ができるのではないかと思うことがある。


カメラマンを11人も使ったという、堤さん独特のスピード感あるカメラワーク。闇に浮かぶ白虎楼、蒼龍楼をバックにしたステージには、まるで結界を張るように注連縄が張り巡らされ、白い紙垂が風に揺れる。
「月―ツク」に、ゆっくりと空をゆく月を想う。剛さんの奏でる旋律に、太古の記憶を呼び覚ますかのような恵子さんの歌声が絡みつき、月の光が次第に狂気を帯びてくる。狂おしく昴まるグルーヴ。


東京タワー。<縁(えにし)>と書かれたボードを眺めながら剛さんが堤監督につぶやくように語る。
「この国は今人間のメンタルや心にピントを合わせるべき。人を思いやること、自分を思いやること。その想い=<縁(えにし)>だと僕は思っていて、それは日本人の独特な感性が生み出したものだと思う」
「一瞬一瞬を懸命に生き、その点が繋がってひとつの線になるような生き方をしないと今は難しい」
映し出される<縁>と書いたボードを掲げ街角に立つ剛さんの姿。東京の雑踏に溢れる<縁>。点がどんどん増えれば<面>になる、と堤監督が言う。


「縁を結いて」でもまた様々なイメージの欠片が織り込まれる。遠くを見つめる眼差し、アスファルトを踏みしめる足元、風に揺れる草木、光る水面、湧きあがる雲。
前年奈良のShipで生まれた曲、「ヒトツ」。何度も何度も繰り返される言葉のエネルギーがスパイラルを描きながら天に昇ってゆくような印象的な曲だ。いつの日かひとつになれるまで、と天に向けてゆっくりと人差し指を立てる。
「命のことづけ」では彼の美しいファルセットが、「必ず」「叶わす」の掛詞にしのばせた想いを空へと放つ。
夜空を仰ぐ剛さんの目が美しい。堤監督は彼の何かを見つめる眼差しを切り取るのがとても巧い。


レナードさんの白く満月のような太鼓が打ち鳴らされ、篝火の向こうから剛さんがゆらりと現れる。最後の曲は「TUKUFUNK」。和洋ドラム隊+ホーン隊の「叩く・吹く」という音楽の力強いグルーヴ。俯瞰で撮られたステージ後方、大極殿を背に一列に並ぶバンメンさんたちが剛さんを守る十二神将のように見える。
最後の音が消えて、また虫の音が戻ってくる。


「昔の人は風や虫の音や星空をうたにしました。現代の人々にそれを伝えるためにわかりやすい言葉が他に沢山あると思うんですが、昔の人が美しい麗しいと思った言葉や想い、そしてアクションを僕は意識して、たったひとつの人生をひとつの命、自分として生きていけたらと常々思っています。皆さんも自分の大切な人たちを、自分らしくたったひとつの自分の答えで愛し切って欲しいと思います」


ステージを降りた剛さんが、大極殿に向かい深く長い礼をする。


「平安結祈」と「ヒトツ」は明らかに違うものだ。「結祈」は純粋なLIVEフィルム。ストーリー性が強く、剛さんのつくるshamaワールドの内側にドップリ浸かり放題になれるようにできていたが、「ヒトツ」は堂本剛というアーティストの世界観がどう生み出され、どう表現されてゆくのかを客観的に検証してゆくドキュメンタリーフィルムという意味合いが強いように思った。


一筋縄でいかない堂本剛の世界を、堤監督は言葉を尽くすより五感で共有しようとする。虫の音や風や光、彼の生きる世界のイメージが、わかりやすいとは言えない彼の詩の世界に繰り返しあらわれる。丹念に織り込まれる問いと答え。そのサブリミナル効果で、観終わる頃には剛さんのいう「ヒトツ」という言葉の意味がすとんと心に降りてくる、という仕掛けになっている。最後の剛さんの言葉は要らなかった気さえするほどだ。
堤監督という「表現者」である理解者を得た幸運。これも間違いなく剛さんの打ち続けた<点>が引き寄せた<縁>というものなのだろう。


ひとつだけ、現場になかなか行かれない者として個人的な希望を言わせていただくと、「ヒトツ」を「平安結祈」のように純粋なLIVEフィルムとしてつくったヴァージョンも観てみたいと思った。「平安結祈」の、あの結界の中に引きずり込まれるような感覚はやはり忘れがたいのだ。
さて、2013年の大雨の中でのLIVEはこの師弟コンビに一体どんな風に料理されるんだろうか。