ココロ見<ふるさと>前編


今夜は「ココロ見」の「ふるさと」をテーマとした新シリーズの第一回。


一人目は、「桜守」の佐野藤右衛門さん。
京の都でふるさとの桜を守る85歳の”花咲か爺さん”と剛さんの会話の中に散りばめられたシンプルで力強い、人間の「叡智」とでも呼びたい言葉の数々。


『(桜につく)虫は殺さず除ける。虫を殺すことで人間に大切なものもなくなってしまう。人間の勝手で自然の循環を断ち切ってはいけない』
『失敗を繰り返しながら、同じ失敗をしないよう知恵を巡らせることが大事』
『ふるさととは自分の心に宿るもの』
『時間は過ぎてゆくもの。時は刻むもの』


そんな佐野さんが、剛さんの「ソメイヨシノ」をつくった時のエピソードを聞いて、「いやあ、あんた素晴らしい子や。日本は情緒、情景を大切にする。あんたの場合は奈良っていう、日本文化のすごいもんを持ってるから、それを使っていけばいい。あんたの仕事は人に癒しを与える仕事。心のふるさとを自分でつくって音に表現していけばいい。魂に訴える、自然と人の中に入り込む、それがふるさと」
剛さんが何者かよく知らない佐野さんの言葉が、今まさに剛さんがやろうとしていることと重なるのが面白い。黙っていても何か通い合うものがあるのを感じる。


しかし、佐野さんのお名前がなんともクラシックでステキ!と思ったら、これは名跡で、この藤右衛門さんは創業天保3年、代々御室御所に仕えた植木職人「佐野藤右衛門」の16代目なのだった。明治時代の14代目の藤右衛門さんから、滅びゆく日本の桜を後世に伝えてゆくべく、各地の名桜の保存に努めていらっしゃって、それであの広いお庭に様々な種類の桜を育てているのだ。しかも、造園家として世界各国の庭園なども手掛け、故イサム・ノグチ氏デザインの、パリにあるユネスコ日本庭園なども彼の手によるものなのだそう。
全く知らなかったことを恥ずかしく思うほど、プロフィールなど読めば読むほど、その人と「桜守」の仕事に興味が湧いてくる。


佐野さんの言葉にはこんなものがあるそうな。
「桜を見るときは、幹の近くに寄って上を見上げると良い。
なぜなら桜の蕾は太陽に向かい、桜の花は太陽の恵みに感謝し頭を垂れて下を向いて咲くから」。
「ソメイヨシノ」を聴きながらいつも脳裏に浮かぶ、青い空と薄いピンクがかった白のやわらかなコントラストを、古木にもたれてうっとりと見上げる剛さんの姿。どこかで見た剛さんの写真にそんなものがあった気もするけれど、気のせいかもしれない。
佐野一族が桜の樹を守るように、剛さんの仕事もまた日本人の心に残る大切なものを守ってゆく「守」の仕事なのだな、と改めて思う。
ちなみにあの素晴らしい桜畑(と呼ばれているらしい)は見学可能だそう。次回京都に滞在した折には是非訪ねてみたいな。


今宵のもう一人の「賢人」は、仏師で僧侶の吉水快聞さん。仏像を彫り出すアトリエにおじゃました剛さん。古い仏像の修復も手掛ける吉水さんの「歴史のバトンを繋ぐ仕事」という言葉に瞳を輝かす。
というところで、続きは次週の後編へ。


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佐野さんの主な著書、関連書籍などは以下。
「桜守のはなし」 著:佐野藤右衛門 (講談社)
「桜のいのち庭のこころ」 著:佐野藤右衛門 (ちくま文庫)
「櫻よ 花見の作法から木のこころまで」 著:佐野藤右衛門 (集英社文庫)
「京の」 著:佐野藤右衛門 (紫紅社)
「桜守三代 佐野藤右衛門口伝」 著:鈴木嘉一 (平凡社新書)
「櫻守」 著:水上勉 (新潮文庫) ※作中の宇多田は佐野藤右衛門がモデル