Fashion&MusicBook 「街」 闘いは終わらない


剛さん、今夜は言葉を選び過ぎて苦しそうである。


<今は音楽業界をはじめ、どこの業界も、ちょっと時間が速くて固いイメージ。鉄の塊みたいにひんやりして重々しくて、時にとげとげしく痛い、そんなものにずっと触れているみたい。職人がユーザーに対して温度を感じさせる「ものづくり」をしていく時間がない。どの業界も、仕上げ、リリース、納品、梱包、とか全て時間に追われてる。ユーザーに届く時間は確かに短いけど、どれも温度が感じられない。精魂をきちんと時間をかけて注入しないと、うまくユーザーに伝わらないんじゃないか。
で、その音楽をパソコンで聴くとまた音が違う。いいスピーカーで聴くと、あれっと思うほど聞こえてなかった音が聞こえてくるのに、全てをプレゼンできる環境がないのは惜しい。歌だけでなく、ごはんや衣服もそうだけど、「実感」が伴わないことが多くなってる。これではどんな歌も響かないし、どんなごはんもおいしくない、っていうような感覚を育ててしまう気がする。
TVでも短時間におもしろいことを言える人しか使ってもらえない。歌なら3分以内とか。もっと丁寧に温かいものを伝えられるといいのに>


さっくりとまとめると言いたいことは、「もっとアルバムづくりに時間をかけさせろ」、
「せっかく細部まで精魂込めてつくったんだから、i-Podじゃなくステレオで聴け」、「TVでもフルコーラス歌わせろ」、ということでしょう。ふむ。どれも「ごもっとも」。
きょうび1枚のアルバムをつくるにあたってスピードUPが望まれるのは、スタジオ代&人件費の節約ということも大きいのだと思う。こだわりの「もうひと手間」かける時間を削られ、丹精込めて幾重にも重ねたニュアンスに溢れた音をカシャカシャした平べったい音に変換して聴かれ、歌番組に出ればその曲を今度はばっさばっさと切り張りされる。職人気質のアーティストにはざぞ腹の立つことだろうと思う。


歌番組といえば、よく思うのだけど、なぜジャニーズは「ザ・少年倶楽部」のような番組を民放に持たない(持てない?)んだろう。新曲の出たグループは1ヶ月間毎週フルコーラスで歌えるコーナーがあって、歌い手がじっくり歌い込めて、視聴者がじっくりと聴き込めるような。


そして、「カバ」アルバムから「街」。


<この曲をつくった頃、僕の周りには沢山の愛のない人たちがいた。僕はそれに染まらないようにしようと「痛みだけは失いたくない」と歌った。正義感の強い少年のありのままの気持ち、前進しようという気持ちがここにはある。
「痛み」「愛」、このキーワードは、今のいろんな人の心境に重なるし、今の日本と照らし合わせてもリンクするところがあると思う。今また違う環境で聴いてもらうと、当時と感じるものも変わるんじゃないかな、と思える大きな曲に、10年経って仕上がったな、という気がする>


この新しい「街」、初聴きでは「随分淡々と振り返ってるなあ」と思ったのだけど、今夜またじっくりと聴くと、その「淡々」は実は「闘いは終わってない」感なのだと気がついた。何も終わってなどいない。10年前とさほど変わらないであろう「愛のない人々」そして「温もりのない社会」との現在進行形の闘いの中に、彼は今もいるのだ。ぱっくり口を開けていた傷口は癒えたものの、心に残った傷跡は今も疼き続ける。少々後味のビターな「街」。


でも、ひとつ言いたいのは、「たった3分」であろうと、「いいスピーカー」じゃなかろうと、響くものは響くよ。たとえ、ノイズの入ったレコード盤の音でも、ピントの甘いライブ映像の切れ端でも。それが丹精込めて歌われたものなら。それを教えてくれるのがあなたの歌ではないのかな。


今週何度か届いたLFに、不安と焦燥を抱えて空を見上げる姿が過る。早く春一番があなたの空にも吹きますように。