「彼女は涙の後に何を見た?」


一体こういうものを求めている人がいるんだろうか?


虎刈りの坊主頭。彼女は自らの「軽率な行動」を涙ながらに謝罪し、赦しを乞う。
最初その「公式」と銘打たれたyoutube動画を目にした時は、ただ驚いた。事態が把握できると今度は不快感と怒りが湧いて手が震えた。何に対してかよくわからない。多分その前からあった、彼女の所属するグループに対する、いくつかの小さなソコハカとない嫌悪感が集約されたような「もの」がそこにあったからだと思う。


「アイドル」というものの楽しみ方はいろいろあると思うが、多分今も昔も変わりなく「擬似恋愛」というのが一番大きいものだろう。彼女たちは、ファンの「夢」に応えるため、握手会を開くとか、いかにも手の届きそうな「リアルさ」を売りにしてきた。ジャニーズの、お行儀のいい言葉を並べプライベートを極力匂わせないようにする売り方とは逆で、個性を前に出すことを奨励され、個々の人格がわかりやすい、リアルな「人間ドラマ」を見せてくれるアイドルだ。


今回の騒ぎの発端は、その主力メンバーのひとりが、「恋愛禁止」にも関わらず、ボーイフレンドの家にお泊りをしたのを写真週刊誌に撮られた、というもの。同じようなことで、過去に解雇されたメンバーや地方に飛ばされたメンバーもおり、彼女もグループの正式メンバーから研究生へと降格になった。そこでコトの重大さに気づいた彼女が自ら頭を丸め、カメラの前で謝罪をしたのが冒頭のビデオなのだ。(頭を丸めたのと降格処分になったのとどちらが先かは不明)


それは一見、身勝手な大人たちの決めた残酷なルールによって罰せられた可哀相な女の子、のように見える。大切な髪を切ってお詫びをして、自分にとってグループや仲間がいかに大事なものか訴え、「辞めたくない」とはらはら涙を流し、見た者が彼女への同情を募らせる。


でも、そんなに守りたいものがあるなら、何故いかにも撮ってくださいと言わんばかりの行動を撮ったんだろう?彼女たちの周りにいつもカメラの目が光っていることなど重々承知のはずだし、「恋愛禁止」もダテでなく、本当に放逐された仲間を何人も見ているはずなのに。それでもなお「バレないだろう」と思うのはあまりにアサハカだし、「バレてもなんとかなる」と思ったとしたら、それもまた甘いとしか言いようがない。
もちろん年頃の、しかも魅力的で引く手あまたであろう女の子に恋愛をするなというのが酷なのだけど、もっと周到にバレない努力をするべきだったんじゃないのかな。バレたら彼との仲も危ういとなれば、20歳の恋する乙女なら普通もう少し必死に知恵を働かせただろう。その一点がどうも腑に落ちないというか、丸坊主になる、という行動に結びつかない。


もちろん乙女が髪を切る(しかも彼女はきれいな髪が自慢だったというし)ってことは大変なことだとは思う。でも、髪はまた伸びる。そして伸びた頃、彼女は禊を終えてまたレギュラーメンバーに戻り、それを仲間が笑顔で迎えるだろう。そしてファンはその成長と友情の物語にカタルシスを得る。。大団円。


う〜ん、結局「安いドラマを観てしまった」、という気がする。
一見センセーショナルなんだけど、どうにも安い。感情的になりがちな年頃の女の子を大人たちがうまく操る、過剰な演出や打算の匂いがプンプンする。
だって、明日2月1日は彼女たちの映画の封切日だというではないの。しかもその映画のサブタイトルが「少女たちは涙の後に何を見る?」ときては、特大のタメイキも出ようというもの。
多分、私はそこに不快感や怒りを感じたのだ。彼女の行動の異様さだけではなく、彼女たちをプロデュースする秋元さんという人のつくり出す、人をコマのように扱い人の心を揺らす「ゲーム」が昔からどうも苦手だ。あんなみじめな姿の彼女を庇うことなく人前に晒すというような。


例えば私がシナリオを書くなら、彼女が頭を丸めずともスッパリと「20歳の女の子が恋をして何が悪いんですか!この恋愛禁止というルールを撤回してください!」と訴えるとか、仕事のために「これは恋愛ではありません!単なる遊びでした!」とあくまで言い張る、とかいう潔くてカッコいい女の子に仕立て上げる。48人もいるならそんな子もいたっていいじゃない。


同世代の方々には今回の事件にもっと別の想いがあるだろうと思う。これは彼女の親世代の一感想ということで。


追記:1日朝こんなTweetが。
<さんまさんがさゆに言ってたことだけど、「『明日大阪で握手会、明後日仙台で握手会、来てね』って言って飛んできてくれる男なんていない。彼氏だって旦那だって、そんな男いない。ファンだけなんだよ、そんな我儘についてきてくれるのは。だから恋は隠さなければいけない。それがファンへの誠意だ。」>
ほんとそのとおり、「誠意」の問題だな、と思う。ファンに対する誠意、ボーイフレンドに対する誠意、仲間に対する誠意、そしてタレントに対する誠意、そのどれもが欠けてたのが今回の騒ぎであり、一番不快だったことなんだと思う。隠すなら隠す、正直に言うなら言う。彼女なりに、そして周りの大人も「誠意」を見せるべきだった。それは髪を切るなんていうことでは表現できないもののはずなのだ。