Fashion&MusicBook ビジネスとクリエイション


先週のFashion & Music Bookでは面白い話が聴けた。
<そんなに得意じゃないから、人とは今もあまり絡みたくない。でも、自分のしたいことがあって、芸能界でずっとずっとやっていきたいから、この人には気に入られるべきと思えば、プレゼントをしたりマメに気を遣う。すると仕事が来たりチャンスが与えられる。そして、お金は大切な仲間を救う、あるいは感謝を伝えるため、その人たちを守るため、闘う延長として遣う。自分の目標が決まった時、腹を括るべき。>


剛っさんがこういう風にお金の話をするのは初めて聴いた気がする。意外と言えば意外。当然と言えば当然。彼とて一人前の大人、当然ビジネスのことも考えている。でも、彼の話は、「どう稼ぐか」ではなく「どう遣うか」。
昔、私が仕事でお世話になった大先輩が言った言葉を思い出す。「信頼できる仲間に仕事を頼む時は向うの言い値を黙って払いなさい。友達なら安くしてくれ、なんて間違っても言わない。それが仲間」。フリーランスで長く仕事をしてきた方だから、仲間同士の助け合いがどれだけ大事か、彼女はわかっていた。
そうやって築いた信頼は固い。お互いに相手のため力を尽くせば、どうしても必要な時に少しくらいの無理も頼める。大変な時はお互い様、と笑い合える。人と人との繋がりっていうのは、そんな風に出来ていくように思う。


そういえば、Shipの最終日、エントランスを全開し、しかも音を出せる限界であったはずの9時を超えてライブを続けた剛っさんを批判する声があった。「近所迷惑」「約束は守るべき」云々。その前にも近隣から苦情があったらしい、というウワサが流れていたため、Twitter上でかなり手厳しい意見も見られた。
もちろん、約束というのは守られなくてはならない。だが、彼はライブが始まって間もなく、Shipの近隣のお宅に「ご迷惑をおかけします」と自ら挨拶に周り、コミュニケーションを図っている。これは、「一度でも会って話をして誠意を見せた相手に人は寛大になれる」といういわば「大人の知恵」。きちんと挨拶をしておけば、夜中に赤ん坊が泣こうが、ハレの日にハメを外した大騒ぎをしようが、多少のことは「お互い様だもの」と赦し合う。そういう暗黙のルールは一昔前にはどこにでもあった(そして、そういう根回しをしても文句をいういわゆるクレーマー的な人というのも必ずいたが、その人もまた「あの人はそういう人だから」で笑って赦された)。
規則を作り問答無用でNOを突きつけるのではない、人と人とのコミュニケーションで作られた柔らかな「了解」というものがそれぞれのコミュニティーにあった。「もちつもたれつ」をしながらお互いを赦し合うことで、皆が信頼関係を築いていった。多分、剛っさんが「約束を破ったこと」が許せない!と思った人は、ご近所とそういうお付き合いをしたことがない若い世代の方に多かったのではなかろうか。


人を赦す寛大さは「包容力」でもあり、その包容力を身につけると「包容される力」もつく。上手に人に甘えることができるようになった剛っさんは、ビジネスマンとしてもさぞ成功しただろうな、と思う。
ビジネスとクリエイションには境目はないのかもしれない。自分の目的を達成させるためには、戦略を練り、プレゼンをし、必要とあらば人に頭も下げる。彼の場合、そのコミュニケーション力も含めて、プロセスのひとつひとつがひとつの作品を創り上げるための幸福でクリエイティヴなアクションなのだ。