「平安結祈」鑑賞記


「平安結祈」が届いた。
私は去年の平安神宮ライブ時にも、映画の封切り時にも日本にいなかったので、当然今回が初見。わくわくしながらディスク・イン!


水色のライト。逆光の中、スモークを纏ったシルエットの剛っさんがステージに現れる。なんだか水の中から魚が丘に上がってきたような。それともあれは空から舞い降りた天人のイメージか。ライトが消えると闇に篝火の赤と大極殿の朱だけがぼんやりと浮き上がり、篳篥の音が虚空を切り裂く。


雅楽では笙・龍笛・篳篥が三管と呼ばれ、笙は「天から差し込む光」を、龍笛が「天と地の間を縦横無尽に泳ぐ龍」を、篳篥が「地上にこだまする人々の声」を表すのだそうだ。
そして現代音楽のステージでは、笙の代わりにレーザー光線が、堂本剛という龍の天空に舞いあがろうとする姿にざわめく人々の姿を照らし出す。


全くもって「奉納音楽」という呼び方がしっくりくる「美我空」。あの衣装でベースを抱えた剛っさんは、まるっきり琵琶を爪弾く弁天様だ。
「NIPPON」、「Love is the key」とスローな曲が続いた後、ライトが消えてピンスポットの当たったレナードさんの和太鼓がまるで満月のよう。和太鼓のイントロから入る「ENDLICHERI☆ENDRICHERI」、この流れがとにかくかっこいい。バリバリの和ファンクのグルーヴに絡みつくような恵子さんのコーラスがまたいい。Shipの時も、彼女の声の精霊を産み出す大地の女神のような力強さに感動したけれど、ここでの彼女は古の都に住む魑魅魍魎たちをその歌で優しく鎮める菩薩のように見えた。Shipでもしみじみと感じたこのメンバーの相性の良さは奇跡的だが、そこに絶対欠けて欲しくないのは、実は彼女の声だったりする。


そして「時空」。彼は此岸と彼岸に橋をかける巫女だ。その歌声に平安京の地に眠る土地の記憶が呼び覚まされる。祈るように歌われる「Help Me Help Me・・・」、「空〜美しい我の空」の「ぼくならどうするんだろう?」「愛している」という内への問いかけ。かつて彼が「胸宇宙」と呼んだものが、平安京の夜空と静かに溶け合い、浄化されていく・・・ホワイトアウト。「縁を結いて」での涙は彼だけの涙ではない。その地に残る多くの人々の想いが流した涙でもある。


アンコールの「TUKUFUNK」はこの日、何の打ち合わせもなくできてしまった曲なのだと、今夜のF&MBで彼が語っていた。音楽的センスのカケラもない人間にはそれがどういう意味かすらわからないけれど、確かに何度か同じフレーズを重ねるごとに洗練された形(Shipで聴いた完成形に近いもの)が出来上がっていく。プロってすごい。


全体を通して印象に強く残ったのはそのライティングの美しさ。それはもう彼岸に近い。担当者に座布団をありったけあげたいほど。しかし、あのメインの朱赤は鮮血を思わせるような色でもあり、となるとステージは脈打つ心臓のようにも見え、そこからほとばしる「生」のエネルギーを可視化したものにも思えた。


こんな言い方は申し訳ないけれど、期待したよりずーーーっとよかった、「平安結祈」!魂ごと持っていかれる感がハンパなくて。それはトリップというよりトランスな体験。
Shipの親密さ、ライブを体感できるあのかんじは捨てがたいけれど、剛っさんのあの声はやはり一度野外ライブで味わってみたいものだ。虫の音や小宇宙からの雨を感じながら(ま、台風だったわけですが)、月明かりの中、桜の下、五感で愉しむ剛の胸宇宙への旅。