shamanippon もうひとつの「くに」


「平安結祈」の堤幸彦監督の「MY HOUSE」という作品をご存知だろうか?
今年5月下旬に封切られたこの映画は、隅田川で独創的な生活を営む鈴木さんという男性をモデルにしたもので、「坂口恭平の著書を下敷きに、空き缶拾いで生計を立てる路上生活者たちと、一軒家に住む裕福な家族の日常を描く、現代社会の歪みを映し出した作品」だという。クランクインが昨年の3月、震災の直後だと言うから、「平安結祈」の前に監督が手がけたものだ。
と、書いている私も実は知らなかった。恥ずかしながら、自分の観ることができない邦画はほとんどチェックしていないのだ。知ってたら観たかったのに。。(泣)


昨日、SWING-Oさんのこんなツィートがあった。
<俺が先日ベルリンに行った時に偶然出会ったアーティスト坂口恭平原作な映画"MyHouse"の監督と、堂本剛"平安結祈"の監督は同じ堤幸彦。そして二人とも形態は変われど「独立国家」を作っているというのも面白い >


「坂口恭平」という名前には見覚えがあった。ツィッターで私がフォローしている方がここ数日よくリツィートしてきた人だ(その前、彼は「ゼロから始める都市型狩猟生活」と名乗っていた)。彼の壮大な話に、最初は「マジか!」と正直思ったが、そのツィートを全部読んでいったら、えらく痛快で笑ってしまった。彼は本気で革命を起こそうとしているのだ。
まず彼は、故郷の熊本に震災避難民受け入れコミュニティー「ゼロセンター」を作り(5月現在までの受け入れは延べ約100名)、新政府を設立し、初代内閣総理大臣に就任」した。嘘ばかりの日本政府は信じない。既成のシステムに頼らず、新たな通貨も作り、「自分たちの手でゼロから公共を作り出す」、と現在、日本中の所有者不明などで使われていない土地を「所有ではなく共有」する新政府領土拡大計画なるものを進めたり、自称”建てない建築家”でもある彼が、移動式の「モバイルハウス」を開発したりと、かなり具体的な「くに」づくりが進められている。HPにある動画で観る彼の、その確信に溢れた傲慢とも取れる語り口は、村上龍の「愛と幻想のファシズム」の冬二を思い起こさせる(そういえばここにも”ゼロ”という男が登場する。この小説もまた今再読するとえらく面白い)。


映画化をオファーしたのは堤監督。彼の著書「TOKYO 0円ハウス 0円生活」(河出文庫刊)、「隅田川のエジソン」(幻冬舎文庫刊)を読み、直接電話をしたのだという。
堤監督はデビュー間もない90年にオノ・ヨーコ主演でホームレスの生き方を描いた作品を発表しており、「10代の頃から世の中に疑問や不信感をずっと持ち続けてきた。中年になって死を意識するようになった今、自分がずっと意識しているテーマを作品にしたいと思い始めた」と語る。
彼はまた「ぼくたちの勇気 未満都市」の監督でもある。この物語はあらすじを改めて読むと、「大地震」「真実をひた隠す政府」「若者がゼロから新しい秩序を作る」と、今の日本の状況とかなりダブるところがあるのは興味深い。
その彼が今、堂本剛という人の、そしてこの坂口恭平という人の「くに」をつくる活動を撮りたいと思ったところに、一貫した熱い想いを感じずにはいられない。


アーティストはアクティビストだ。全くアプローチは違っても同じ「変えたいもの」がある。何もないゼロの状態から自分なりの方法でつくっていきたい理想の「くに」がある。「MY HOUSE」では、既成のイメージを喚起する色も音楽も排除されている。「平安結祈」ではただひたすらに説明を排してライブを撮り続けた。古い価値観に依存するな。自分の心で感じろ、考えろ、想像しろ、と彼らは言う。


私が剛っさんにこんなに惹かれるのは、堂本剛という人が、shamanipponというものが、ひとつの「社会現象」でもあるからだ。多くの人の想いを繋げて新しい秩序をつくり出す。同じ想いを種子とする萌芽が、日本のあちこちで今、始まっているのだ。


追記: 坂口恭平公式HP「0円ハウス」→http://www.0yenhouse.com/house.html これまでの彼の活動が全て見られます。
坂口さんを追ったドキュメンタリー「モバイルハウスのつくりかた」が現在渋谷のミニシアター「ユーロスペース」で公開中。