Fashion & Music Book & どヤ!


「Fashion & Music Book」、今回は「ソメイヨシノ」を作った時のことを思い出して、彼がどうして恋の歌を歌わなくなったか、というちょっぴりシリアスな話を。


「ソメイヨシノ」を作ったのは、「この桜、あんたとあと何回見れんのかなあ」という母親の言葉から、というのは彼のよく話すエピソード。
< (作った頃は)命っていうものを意識する機会が凄く多くて。僕自身も、精神状態が悪くて、生きるってことや死んでいくっていうことを凄くリアルに感じてた時代だった。 >
だからこそ、死を意識して孤独を感じているであろう母の世代の人たち励ますため、そして同世代でも命のことを考えながら生きている人ちのために歌っていこうと彼は考えた。
< 僕たちは命がなければ恋愛もできないから、その恋愛とかの恋の歌を歌うんではなく、恋の手前の、命あるからこその話をしよう、と。 >


「歌う」、と言ってはいるが、それは自作の曲にこだわる堂本剛というアーティストには「つくる」ということでもある。生まれたということ、生きていくということの根源的な意味を考えることは、そのまま愛や絆を結んでいくことに繋がる。だから、そのための命の歌をつくり続けたい。日本は今年、3.11の地震、台風12号による大きな災害に見舞われた。その今も消えることのないショックの中で、彼はその想いを一層固くしたはずだ。


そのソロ活動とは対照的に、KinKi Kidsの「K album」では様々なかたちの恋や愛の風景を歌った。そこには人が、切ない想いに身を焦がしたり、激しい感情に震えたり、穏やかな愛情に身をゆだねたりしながら、人生の大切な時を過ごしている。そのいくつかは、今の彼の想いを代弁するかのような、深い慈しみを感じさせる曲でもあった。
堂本剛としてつくり出す世界にある「生きる」という大切さ、そしてそれを知ったあとにある、愛すること、絆を結ぶことの喜びをKinKi Kidsとして歌う。その両方を表現できる彼は本人も言ったように、本当に幸せ者だ。


今夜、「どんなもんヤ!」でKinKiの新曲「変わったかたちの石」が初披露となった。先日の日経エンタでの対談でも話題になったが、「K album」でいかにも歌謡曲といった印象の「破滅的Passion」を提供した秋元康氏作詞の曲ということで、もっと輪郭の濃いものを想像していたら、さにあらず。印象派の絵のような、透き通った陽の光がつくり出す淡い影の揺れるような物語だった。「K」ではなく「J album」の繊細さが薫る。
どちらかと言えばシングル向けではないこの曲を、この時期にあえて出すという意味がどこにあるのか、若干理解に苦しむところもあるが、「大人になったKinKi Kids」が、今後どんな展開を見せてくれるのか、2012年に向けて期待はふくらむ。