聖地へ


大和ことばには「自然」という言葉はなかった。
八百万の神々とともに生きていた頃の人々にとって、人というものは森羅万象の小さな一部であったから、そこを明確に区別する言葉を持たなかったのだ。
人とは自然である。内は外であり、外は内でもある。外的な何かを描写することで自分の内面を表現する。その美意識が和歌や俳句を生む。


「NIPPON」のジャケット、彼自身がデザインしたそのアートワークは、まるで彼の瞳の中を覗き込んだようだ。
彼の目に映る神社の鳥居、寺、高層ビル、五重塔、花、日本の現在過去未来の交じり合った風景が重なり合い絡み合い、それを神のお使いである鹿たちが守り抱く。
深い森の奥に輝くのは、穢れを焼き払う原始の火か、それとも未来を照らす陽の光か。幾重にも重ねられたイメージからは、木々を揺らす風、地を走る水、空をゆく月、人を包み込む畏怖すべき大きな力の気配を感じる。


一見複雑そうに見えて、極めてシンプルな彼の世界観を表す、剛曼荼羅。
心臓<Heart>を模ったかのようなその中心は、鮮やかな血肉の色で彩られ、ゆっくりと鼓動を響かせながら、より深く密やかに神々の世界と融合していく。


私たちは、一頭の美しい牡鹿に導かれ、聖地へと向かう鳥居を今、くぐる。