14年後の「硝子の少年」


14年後の「硝子の少年」。
「K album」の豪華な作家陣がイメージする「大人になったKinKi」。どの曲も彼らに対する想いがしっかと込められているから、それぞれ全く違う色の糸なのに、彩度のバランスのよさで美しい織のアルバムに仕上がった印象がある。


特に私は松本隆という作詞家の世界が好きだ。今回は「ヒマラヤブルー」「同窓会」「ラジコン」と3曲も提供されているのは、やはりKinKiの原点である「硝子の少年」の成長を彼に描いて欲しかったからだろうか。


先日のbayfmでのKinKi特集で、音楽評論家の田家秀樹さんが話していた、「松本隆というとイメージは女性向けの作家だが、実は彼は少年を描くのに長けた人なのだ」というのに激しくうなずいてしまった。
大瀧詠一のアルバム「A LONG VACATION」や、原田真二の「てぃーんずぶるーす」などの一連の作品、そして松田聖子や太田裕美の歌う曲の世界に住む、優しくナイーヴで胸のどこかに痛みを抱える少年たち。「てぃーんずぶるーす」は今歌詞を読むと、明らかに「硝子の少年」の原型であり、あれは彼の中の永遠の少年像なのかもしれない。


「母をたずねて三千里」、「カリフォルニア物語」、「海辺のカフカ」、少年たちは、人に傷つき傷つけられ、泣き、笑い、迷い、怒り、恐れながら、いつも遠い場所を遠い未来を夢見ている。心ここにあらず。松本隆の書いた女の子向けの曲がどこか切ないのは、そういう少年に恋をしてしまった物語だからだ。彼は乙女心を描いているようで、実はその目の先にいる少年を描いているのだ。


「さらばシベリア鉄道」の後日談みたいな「ヒマラヤブルー」、穏やかな恋の風景「ラジコン」、淡いあの日の想いが蘇る「同窓会」。この3曲には、あの日あんなに傷ついていた少年のその後=アイドルになっていなかったあのふたりが歩んだかもしれない人生、そのパラレルワールドが静かに描き出されている。


彼はかつて「作詞家は言葉という楽器を弾くミュージシャンだ」と言った。その音は少年の心のように、ふたりの歌声のように、いつまでたっても古びることはない。