大和色、大和心


9月3日に河瀬直美監督の「朱花(はねづ)の月」が公開される。
「殯(もがり)の森」で第60回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞した彼女が、今年もこの「朱花の月」でカンヌ映画祭に招待された。
彼女の作品は本当にフランスを始めヨーロッパで高い評価を受けていて、私は「殯(もがり)の森」をこちらTVのアートチャンネルで観た。簡単な言葉で説明されない言葉少なな彼女の作品は理屈では理解できない、「感じる」物語だ。


彼女の作品のタイトルにはよく大和言葉−古い日本の言葉−が使われている。
朱雀、火垂、殯、玄牝、そして朱花・・・。この「朱花の月」という三人の男女の絡み合った想いの物語も、その昔、大和三山(畝傍山、香具山、耳成山)は三角関係にあり、香具山は畝傍山がいとおしいと耳成山と争ったという大和の古い伝説にヒントを得ている。


  思はじと 言ひてしものを 朱華色の 移ろひやすき 我が心かも
                                (大伴坂上郎女)
あなたのことを忘れようとしているのに、私の心は朱華色のように変わりやすく、またあなたを思い出してしまう


植物から作ったこの朱華(朱花)色という色はとても褪せやすく変わりやすい色だった。諦めたはずの想いがまた燃え上がる、切ない女心をその大和色に込める。


河瀬監督の作品はいつも自然とともに生きることをテーマにしている。時に荒々しく、時に愛おしく人間を包み込む自然を、敬い畏れ共存することが私たちの未来をつくっていくというメッセージを映像に託す。そこにある視線は堂本剛のそれと不思議なくらい同じだ。
彼女もまた奈良の生まれ。今も奈良に住み奈良を愛し誇りに思うがゆえ、自分たちの国を文化を大事にし、明日に繋げていく大切さを訴える。それは奈良が日本という国の始まった地ゆえに、そこに染みついたいにしえの人々の想いが、今も人の心を「美しい大和」に向かわせているかのように見える。
大和人の心を持ちながらテクノロジーと生きる。そこに新たな可能性を拓くことが、私たちのつくる新しい未来なんじゃないだろうか。そんなことも思わせる。
http://nara.utsukushiki-nippon.jp/
「たゆたふ故郷」、彼女の撮った奈良。ここに大和人の心のよりどころを見る。


27日のFashion & Music Bookでも語られた彼の愛する美しい「大和色」。
朱花、萌黄、青丹、茜、浅葱etc.自然の生んだその色のひとつひとつに物語が息づいている。四季が生み出す花の色、木々の色、空の色、水の色・・・この感性を失いたくないと切に思う。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~sakamaki/yurai.html


大和人を意識する彼の背後に面白い符号がある。彼の出身は奈良市の敷島町。この「敷島」というのは「大和」の枕詞なのだ。
< 敷島の 大和心を人問わば 朝日に匂ふ 山桜花 (本居宣長)>
これは日本人が本来持っている「潔い美しい心」や「もののあわれを解する心」を表した歌と言われる。そしてもうひとつ、
< 敷島の 大和心のををしさは ことある時にぞ あらわれにける (明治天皇)>
大和人の心の勇ましさは、この国に一大事が起きた時に現れる。
この心を、私たちは今一度信じたい。