縁を結いて [ケルトと五十鈴]前編


「天河神社の五十鈴の、三つ組みの鈴の上に同心円紋様が描かれていて、それがケルトの三つ組みの渦巻き紋様と酷似している」。
日本で買い込んだ本の一冊を何気なく開くと、その文章が目に飛び込んで来た。
一瞬虚をつかれた、その次の瞬間、私の中に長いこと引っかかっていたいくつかの小さな事柄が、その真ん中にぽんと「五十鈴」を置くことでひとつの像を結んだ気がした。
「ああ、縁が結われたんだ」、と思った。


ケルトの歴史というのは、紀元前1500年頃中央ヨーロッパに始まる。(文字を持たなかった謎の多い民族なので諸説あり)
彼らは大和民族のように、自然の中に神々を見い出した多神教の人々であり、また輪廻転生を信じていたので闘いに於いて死を怖れない勇猛な民族だったと言われている。その神話では、神、人、精霊、動物と自然が密接に係わり合い、すべてがひとつの大きな輪の中で生と死を繰り返す。その永遠性のシンボルが、天河の五十鈴にそっくりなその三つ組みの渦巻き紋様なのだ。


私はその渦巻き紋様の指輪を持っている。ローマ人によってヨーロッパの辺境に追いやられたと言われるケルトの、いわば総本山とも言えるアイルランド。私は彼らに「呼ばれ」、そこに1年間暮らしたことがあるのだ。


「呼ばれ」た、と書いたように、ここから話はかなりスピリチュアルめいてくるので、アレルギーのある方は読まない方がいい。


その頃私は精神的に煮詰まっていて、仕事を辞めてしばらく気晴らしに半年くらい海外に行ってみようかなと考えていた。とにかくひとりでいろいろ考えてみたかったし、苦手な英語をきちんと勉強してみたいという気持ちもあった。
するとある日親しい友人が「ものすごーく当たる霊能者がいるのよ。予約取るのがえらい難しいけど行ってみる?」とその人の電話番号をくれた。


ご存知のように私はただの野次馬である(そしてその友人も)。神秘主義者でも占いマニアでもスピリチュアルおたくでもなんでもない。ただ、そういうことがあってもおかしくない、あったら面白い、あったらいいな、くらいなスタンスの人間だ。
だからその時も「今の状況を相談したら、どんなことを言われるだろう?」とまず好奇心が湧いた。が、一方で30過ぎてのドロップアウトはさすがに勇気が要って「ワラにもすがる」気持ちもあった。あわよくば背中を押してもらえたら、と予約受付の開始時間にダメもとで電話をしてみた。すると一発で電話はかかり、希望の日に予約が取れた(後で聞いたらそんなことは奇跡に近いことだったそうだ)。


もしかして?と思った方もいるかもしれないが、その霊能者というのはあの「オーラ」のEさんである。今は一般の相談者は受け付けないそうだが、当時はまだ知る人ぞ知るという存在で、下北沢からほど近いアパートの一室でカウンセリングをしていた。
ヨーロピアンテイストなカウンセリングルームに「こんにちは〜」と入って来た彼は、やおら私の背後の「人」とコンタクトを始めたと思うと、開口一番「あなた今海外に行こうとしてますね。行った方がいいと後ろの方が言ってます。でも行くなら半年以上。そうするとその後のあなたの人生にいいことがあるそうです」。
断っとくが、「こんにちは〜」の後、私たちは何の会話も交わしていない。あと彼が知っていたかもしれないのは当日受付で書かされた私の住所氏名電話番号くらいだ。


家に帰ってもただボーゼンとしていた私の前にあったカードは二枚。
行くならイギリスかアイルランド。本当はイギリスに一番行きたいけど物価も学費も高いから予算を考えると居られて半年。でもアイルランドなら1年居られる(今はイギリス並みに高いらしいが、当時はそんなもんだった)。どうする???


するとその日を境にアイルランドが、ケルトが私を呼ぶ声が聞こえ出した。


長くなるので <つづく>