「パエトーン」と広瀬隆


3月11日以来、私たちは原発や放射能というものに関するとんでもない量の情報の中に生きている。
だが、あの日から時が経つにつれてその情報がどんどん曖昧なものになっている。宮根さんじゃないけど、ほんと大事なとこがサッパリわからないのだ。一体状況は良くなってるのか悪くなってるのか、危ないのか危なくないのか、聞けは聞くほどわからない。
どこのTVも新聞などの活字媒体、政治家はもちろん、専門家すら歯切れが悪い。「わかりやすく話してヘタに理解されると国民が動揺するから」という政府の気配りという名の圧力か、それとも日本のへタレメディアの自粛という名の怠慢か。


とにかく、欲しいと思う情報を探そうとすると、ものすごい専門的なとこまで入って行くしかない。でもそこは鬱蒼とした専門用語の樹海で私なんぞは三歩で遭難である。
そんな中で、漫画家の山岸凉子がチェルノブイリの事故の2年後、88年に描いた「パエトーン」という作品が現在ウェブ上で無料配信されているのを知る。ASUKAという月刊誌に掲載されたもので、現在も文庫として売られているものを全ページ掲載というので、早速読んでみた。
巻頭にある作者のメッセージが以下。


《 東北関東大震災で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
そして、福島原発の最前線で命を賭して従事している皆様に、深い感謝と尊敬の念を禁じえません。
勇気ある彼らのためにも25年ほど前の作品ですが、全国の皆様に読んでいただき、今一度原発の是非を考えてもらえたらと思っております。
では『パエトーン』をどうぞごらん下さいませ。
2011年3月22日 山岸涼子 》
http://usio.feliseed.net/paetone/


私たちと同じく、「事故」が起きるまで原発というもの、またはその安全性なんてことを特に深く考えたことがなかった作者がチェルノブイリを機に描いたものなので、ドシロウトにもとてもわかりやすく、原始力発電のしくみや放射能物質が人体に及ぼす影響、放射能廃棄物問題などについて説明されている。


その元のなったテキストは広瀬隆の「これが最後の正月か」という当時(多分雑誌に)連載されていたものだそう。
この漫画にも出てくる広瀬氏の「危険な話」というのはチェルノブイリ後の反原発を唱える若者のある種バイブルだった本。その前に出版されていた「東京に原発を」や「ジョン・ウェインはなぜ死んだか」などの原発や核実験の危険性を説くノンフィクションを含め、当時危機感を抱いた者たちは皆彼の本をむさぼるように読んでいた。彼は今回も福島原発の事故後のTVや動画メディアに出演していたので、その姿を観た方も多いと思う。


いつものことながら、その発言には「専門家」から疑問も寄せられているそうだが、「パエトーン」を読んで彼の著作にも興味を持った方には一読をオススメ。
とんでもなく大きな権力を敵に回してる人だから、左翼だとか危険人物だとかそれこそいろんな風評を立てられてはいるが、だからこそその体を張った仕事は一読の価値がある。
読後に聴くブルーハーツの「チェルノブイリ」やRCサクセションの「サマータイム・ブルース」は心にずしんと響きます。